コバルト・ヒスイとは、青い顔料の1つであるコバルト・ブルーに色彩が似た本ヒスイ{硬玉(ジェダイト)}です。コバルトが多く含まれているような名称ですが、分析してもコバルトは検出されません。紺色に近い青色を呈しているので、青翡翠(青ヒスイ)と呼ぶべきかもしれません。
展示品の分析を行ったところ、白色部はヒスイ輝石で構成されていますが、青色部では様子が異なっていました。ナトリウムの一部はカルシウムに入れ替わっており、アルミニウムの一部はマグネシウムと鉄とチタンに入れ替わっていました。この様な元素の置換が進むと、別の種類の輝石(オンファス輝石)に分類されます。
コバルト・ヒスイの発色は、チタンが鉄とセットを形成して、アルミニウムと置き換わっていることが原因です。ヒスイ輝石の内部で、アルミニウム原子は3個の電子を失った状態で存在します。チタン原子は4個の電子を失った状態を好みます(3個の電子を失った状態は不安定です。)。よって、アルミニウムをチタンに置き換えるためには、不都合が生じます。そこで救いの手を差し伸べるのが鉄原子です。鉄原子は3個の電子を失った状態の他、2個の電子を失った状態で存在することが出来ます。4個の電子を失ったチタン原子と、2個の電子を失った鉄原子がペアを形成すると、2個の原子で6個の電子が失われた状態が生じます。この状態は3個の電子が失われた状態の原子が2個存在するのと同じ状態であり、鉄原子の1個の電子がチタン原子に移動(電荷移動)することになります。電荷移動が結晶内部で生じると、広範囲の色彩の可視光線が吸収されるようになります。コバルト・ヒスイの場合、赤色と黄色と緑色の光が吸収されてしまい、青色を呈するようになります。 |