「Abee」は、エイビーと発音する。学会で、アビーと発音したカナダ人が、別のカナダ人に注意されたそうだ。エイビー隕石は、1952年6月10日、カナダのアルバータ州のエイビーに落下した。落下地点の地名「Abee」は、エイビーと発音する。アビーではない。学会でカナダ人がカナダ人に注意されたこともある。エイビー隕石の回収量は約107Kg。エンスタタイトコンドライト(頭文字を取って、Eコンドライト)と呼ばれるコンドライトの一種である。
Eコンドライトを構成する主要な鉱物は輝石(エンスタタイト)、斜長石(アルバイト)、鉄ニッケル合金(カマサイト)、硫化鉄(トロイライト)である。輝石はほとんど純粋なエンスタタイト(MgSiO3)であることから、エンスタタイトコンドライト(Eコンドライト)と呼ばれている。写真で光っている部分は鉄ニッケル合金である。また、Eコンドライトには珍しい鉱物が多数存在しており、なかには地球上で見つかっていない鉱物も含まれている(下のコラム欄参照)。ところで、同様な鉱物で構成されている隕石として、エイコンドライトの一種であるオーブライトが知られている。オーブライトはEコンドライトと密接な関係があるのであろう。酸素の同位体比組成の分析からもこの考えは支持されている。
つぎに、Eコンドライトの化学的な特徴をみてみよう。他のコンドライトや地球の岩石に含まれる珪酸塩鉱物(カンラン石や輝石など)には鉄が含まれているが、Eコンドライトではほとんど含まれていない。Eコンドライトでは鉄は酸素と結びつくとができないで、鉄ニッケル合金か硫化物として存在している。酸素と結びつくことが多い元素(マグネシウム、マンガン、チタン、クロム)もイオウと化合している。この様になったのは、Eコンドライトが酸素が欠乏した環境(還元的な環境)で形成したことが原因である。この事実は、原始太陽系では酸素の存在に地域的な偏りが存在していたことを示している。
以上のように、Eコンドライト(それにオーブライト)は特異な隕石である。地球とは無関係な隕石と思える。しかし、酸素同位体比の組成の特徴は地球と月の岩石と一致している。この様な隕石は他には知られていない。Eコンドライトと地球は育った環境が異なる兄弟なのか、それとも、酸素同位体比の組成の特徴の一致は偶然で、両者は他人なのか。興味深い隕石である。 |