中央部にあるカビのような含有物がクリストバル石です。クリストバル石は水晶(低温型石英)と同じ化学組成(SiO2)をもつ鉱物ですが、両者は結晶構造が異なっています。低温型石英は573℃以下で安定な鉱物です。それ以上の温度に加熱すると、結晶構造が変化し、高温型石英へ変わります。さらに加熱し、温度が870℃以上になると鱗珪石へ、1470℃以上になるとクリストバル石へ変わります。水晶とクリストバル石が安定な条件には大きな違いがあり、両者が共存することは容易ではありません。急激に加熱され、素早く冷却されれば、偶発的な共存が可能です(例:カミナリ水晶)。その際、クリストバル石の形状は不規則なものになります。しかし、この標本に含まれているクリストバル石の形状は規則的な放射状であり、ゆっくりと形成されたことを示しています。よって、特別な仕組みが必要です。
水晶とクリストバル石が共存できた理由を考えてみましょう。その際、クリストバル石と一緒に含有されている方解石(CaCO3)と蛍石(CaF2)の存在が手がかりとなります。方解石は石英と共存することが多い鉱物ですが、蛍石は希です。そこで、フッ素(F)に注目して、以下のような反応を考えてみます。 |
SiF4 + 2CaCO3 → SiO2 + 2CaF2 + 2CO2 |
もし、四フッ化ケイ素(SiF4)としてフッ素が存在し、方解石と反応したとすると、二酸化ケイ素(SiO2)と蛍石が生成します。二酸化ケイ素の融点(液体から固体になる温度)は1713℃ですが、四フッ化ケイ素の融点は-90℃です。よって、水晶が形成された温度(573℃以下)でも、上記の化学反応によって、固体の二酸化ケイ素が生成されることが可能になります。その際、生成するのは、液体の二酸化ケイ素が固まる時と同じで、結晶構造が最も粗いクリストバル石です。温度が低いので、クリストバル石は安定に存在します(鱗珪石に変わることが出来ません)。この様な化学反応が起これば、水晶とクリストバル石が共存する理由が説明できそうです。 |