ホワルダイト(Howardite)とユークライト(Eucrite)とダイオジェナイト(Diogenite)は、連続的に変化する化学組成と共通の酸素同位体組成の特徴を持っている。これらの隕石は共通の天体での火成活動で誕生したと考えられており、3種類の頭文字をとって、まとめてHED隕石(ヘッドいんせき)と呼ばれている。ここでは、HED隕石が形成された天体(母天体)の研究について紹介する。
HED隕石の年代は約44億年より古い分析結果が出ている。母天体の誕生(=太陽系の誕生。約45億年前。)から短い期間(約1億年)で、母天体での火成活動は終了したことになる。これより、母天体は半径が数百Km程度の小規模な天体(小惑星)と推定される。
左下の図は、パラサイト(鉄ニッケル合金とカンラン石からなる石鉄隕石)が、HED隕石の母天体の核であったと仮定して、1967年に提唱された古典的なモデルである。半径(300Km)はパラサイトの冷却速度から推定している。母天体全体の化学組成がコンドライトと同じようになるように、各層の厚さは決められている。その後の酸素同位体の研究によって、パラサイトとHED隕石は同じ特徴を持つことが判明している。この事実はHED隕石とパラサイトの関係を示す重要な状況証拠である。
HED隕石の反射光には大きな特徴があり、小惑星の光学的観測から母天体を捜すことも行われている。よく似た光り方をする小惑星は少ない。しかし、第4番小惑星ベスタが似た光り方をする小惑星として知られている。ベスタの半径は260Kmである。ベスタのくぼんだ部分の光り方はダイオジェナイトに似ており、その他の部分はユークライトに似ていることも分かっている。HED隕石は第4番小惑星ベスタの欠片かもしれない。ただ、地球との距離を考えると、ベスタによく似た光り方をする小惑星ブライユの方が母天体として考えるには適当であろう。
以上の研究より、HED隕石は半径が数百Km程度の小惑星の欠片であると考えてもよいであろう。ただし、HED隕石とパラサイトの関係には疑問がある。数百Km程度の小惑星の内部では、鉄ニッケル合金とカンラン石が重力で完全に分離して、パラサイトのような混在した状態は形成するのが困難であると考えられるのである。 |