電気石

 電気石(でんきせき)はホウ素を主要構成元素とする珪酸塩鉱物のグループです。名称は電気的な性質(コラム参照)が強いことに由来します。最近では、宝石名のトルマリンの方が一般的かもしれません。電気石は化学組成に基づいて13種類程度に分類されています。下方の分類表にまとめましたので、参考にしてください。ここでは5種類の電気石を展示しています。宝石としてよく利用されるもの(ルベライトやパライバなど)はトルマリンのコーナーを参照してください。

鉄電気石 苦土電気石
鉄電気石 鉄電気石 苦土電気石

Governador Valadares,
Minas Gerais, Brazil

Ganesh Himalaya, Nepal

リチア電気石 リディコート電気石 灰電気石
リチア電気石 リディコート電気石 灰電気石
Cruzeiro mine, Minas Gerais, Brazil Anjanabonina, Madagascar Brumado, Bahia, Brazil

電気石の化学組成

化学式:AB3C6(BO3)3Si6O18(X)3Y

 電気石は鉱物グループの呼び名で、13種類程度の鉱物に分かれています。化学組成は複雑ですが、上記の式で、ほぼ表すことができます。赤い文字の部分{(BO3)3Si6O18}は共通です。赤文字のBはホウ素の元素記号Bであることに注意してください。青文字のABCXYに入る元素などの種類によって、トルマリンの種類が変わります。
 Aには、ナトリウム(Na)か、カルシウム(Ca)が入りますが、何も入っていないトルマリンも存在します。Bには、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)が入ります。Cには、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)が入ります。Xには、水酸基(OH)と酸素(O)が、Yには、水酸基(OH)、酸素(O)、フッ素(F)が入ります。下表に、13種類のトルマリンの名前と化学式を掲載しました。上記の化学式と照らし合わせながら、見てください。表中の化学式で出てくる記号『口』は、そこにあるべき元素が存在しないことを意味しています。また、下表で記載した13種類のトルマリンは理想的なものであり、実際には他のものと混ざり合っています。例えば、鉄電気石と苦土電気石の中間の成分を持つものが存在しますが、鉄が多い場合には鉄電気石、マグネシウムが多い場合には苦土電気石と呼ばれています。

電気石グループに属する鉱物名とその化学組成
 1.  ロスマン電気石 口LiAl2Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 2.  苦土フォイト電気石 口Mg2Al7(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 3.  フォイト電気石 口Fe2Al7(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 4.  リチア電気石 NaLi1.5Al1.5Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 5.  オレニ電気石 NaAl3Al6(BO3)3Si6O18(O)3(OH)
 6.  苦土電気石 NaMg3Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 7.  鉄電気石 NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 8.  クロム苦土電気石 NaMg3Cr5Fe(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 9.  バーガー電気石 NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(O)3(F)
 10. ポヴァンドラ電気石 NaFe3Fe3Mg2(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
 11. リディコート電気石 CaLi1.5Al1.5Al6(BO3)3Si6O18(OH,O)3(F)
 12. 灰電気石 CaMg3Al5Mg(BO3)3Si6O18(O)3(OH)
 13. 鉄灰電気石 Ca(Fe,Mg)3Al5Mg(BO3)3Si6O18(OH)3(O)

コラム「電気石の焦電性と圧電性」
 電気石の結晶を加熱すると、結晶の一端がプラスに、その反対の端がマイナスに帯電し(静電気を帯び)ます。この様な現象は焦電気(またはピロ電気)といい、電気石がスリランカからヨーロッパへ初めて持ち込まれた時(1703年)には、すでに知られていました。宝石店のショーケースで最初にホコリをかぶる宝石はトルマリン(電気石)だと言われています。照明によって暖められて帯電し、ホコリを集めてしまうのが原因です。
 焦電気が起こる鉱物は独特な形をしています。上段の左端に展示している鉄電気石の写真を見てください。結晶の側面から写したものですが、結晶の上端と下端の形状が異なっていることが分かります。上端は尖っていますが、下端は尖っていません。この様な形は異極晶といいます。焦電気が発生するのは異極晶の鉱物だけです。ここで、ひとつ注意しておきます。水晶も尖った上端と尖っていない下端を示していることが多いのですが、水晶は異極晶ではありません。本来なら両端が尖っているのですが、母岩(結晶が付着している岩石)の影響で、下端の成長が妨げられて、尖っていないだけです。電気石の下端が尖っていないのは母岩の影響ではありません。右下に展示した灰電気石の写真を見ると、母岩(写真では白い岩石)に接していない端(写真では左上の面)が尖っていないことがよく分かります。
 電気石を帯電させる別の方法があります。電気石の結晶に力を加えて変形させても、電気石は帯電します。この様な現象は圧電気ピエゾ電気)といい、1880年にキューリー兄弟(弟は後のキューリー夫人の夫)によって発見されました。圧電気の強さから圧力を測定する装置にはリチア電気石が使用されています。
 圧電気が生じる原因は結晶の非対称性です。異極晶でない鉱物でも発生します。この点が焦電気と異なっているので、注意してください。圧電気は水晶でも起きます。地殻に大量の水晶が含まれているので、地殻に異常な力が加わると、地殻内部に電気が生じます。地震が起こる前、地殻には異常な力が加わっていることがあるので、ピエゾ電気が地震予知に使えるのではないかと研究が進められています。

電気石 (原石等) ●リチア電気石(原石標本)


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