どの様にしてトラピッチェ・エメラルドが誕生したのでしょう。このコラムでは、成因をタイプ別に紹介しましょう。
まず、亀型ですが、このタイプの成因はかなり解明されています。上図を見てください。まず、六角柱状のエメラルドの結晶がゆっくりと成長し、形成されます(1)。つぎに、ベリルと曹長石の成分に著しく富んだ熱水(高温の地下水)がやって来て、六角柱状のエメラルドの結晶の周りにベリルと曹長石の結晶(黒線部)が生成します(2)。結晶が成長する際、結晶の材料物質が豊富に存在すると、結晶の尖った部分が選択的に成長します。その理由は、結晶の本体の周りよりも、尖った部分の周りの方が、材料物質が豊富に残っているからです。よって、(2)のような形状に成長します。やがて、ベリルと曹長石の成分に著しく富んだ熱水が消えていくと、再び、エメラルドの結晶がゆっくりと成長して、全体が完成します(3)。
*型は亀型の特殊な例です。第一段階(1)で形成される中心部が、エメラルド組成でないベリルで構成され、かつ、細いままで第二段階(2)へ移行したと考えることが出来ます。
花形の成因はよく分かっていません。エメラルドの結晶構造(六方晶系)からは花型の双晶は原理的に生成しません。何か特殊な仕組みがあるはずです。花型のものには、別の興味深い現象がいくつか知られています。花びらにあたる部分の三角形の隙間に、右上の展示品のように何もないタイプの他に、ベリルが存在するタイプも知られています。右上の標本は、この形状で母岩(石灰岩)に埋まっていました。また、トラピチェ・エメラルドと同様の構造を持つコランダム(トラピッチェ・ルビーやトラピッチェ・サファイア)も知られていますが、それらは亀型および*型のみで、花型は存在しません。この様に、花型のトラピッチェ・エメラルドには謎が多く残されており、ミステリアスな標本となっています。 |