トラピッチェ・エメラルド

化学式:Be3Al2Si6O18

トラピッチェ・エメラルド トラピッチェ・エメラルド2
Muzo mine, Boyaca, Colombia

損傷がない理想的な結晶の形
亀型のトラピッチェ・エメラルド *型のトラピッチェ・エメラルド 花型のトラピッチェ・エメラルド
亀型 *型 花型

 トラピッチェ・エメラルドはバランスよく分域化された結晶で構成されたエメラルドです。名称は、形状がサトウキビを搾る農機具の歯車に似ていることから、スペイン語の trapicho (歯車の意)に因んでいます。トラピチェ・エメラルドは、19世紀後半、あるいは、20世紀前半にコロンビアで発見されたようですが、詳細は不明です。変わり種としてマニアに人気があり、宝石としても利用されています。
 トラピッチェ・エメラルドの形状は、展示品(注意:左上は研磨品のため、縁が丸く加工されています。)の様に、亀の甲羅のようなタイプ(左側)と花のようなタイプ(右側)の2種類に分けることが出来ます。損傷がない理想的な形をイラストで表示しました。見比べて、形状を確認してください。緑色部は純粋なエメラルドですが、黒線部にはベリル(エメラルドが属する鉱物種)と長石の一種の曹長石(NaAlSi3O8)などで構成されています。中央部の六角柱状のエメラルドの大きさにはバラツキがあり、中には、六角柱状のエメラルドが存在しないタイプ(*型)も知られています。

亀型のトラピッチェ・エメラルドの成長図
トラピッチェ・エメラルドの成長図

コラム「トラピッチェ・エメラルドの成因」
 どの様にしてトラピッチェ・エメラルドが誕生したのでしょう。このコラムでは、成因をタイプ別に紹介しましょう。
 まず、亀型ですが、このタイプの成因はかなり解明されています。上図を見てください。まず、六角柱状のエメラルドの結晶がゆっくりと成長し、形成されます(1)。つぎに、ベリルと曹長石の成分に著しく富んだ熱水(高温の地下水)がやって来て、六角柱状のエメラルドの結晶の周りにベリルと曹長石の結晶(黒線部)が生成します(2)。結晶が成長する際、結晶の材料物質が豊富に存在すると、結晶の尖った部分が選択的に成長します。その理由は、結晶の本体の周りよりも、尖った部分の周りの方が、材料物質が豊富に残っているからです。よって、(2)のような形状に成長します。やがて、ベリルと曹長石の成分に著しく富んだ熱水が消えていくと、再び、エメラルドの結晶がゆっくりと成長して、全体が完成します(3)。
 *型は亀型の特殊な例です。第一段階(1)で形成される中心部が、エメラルド組成でないベリルで構成され、かつ、細いままで第二段階(2)へ移行したと考えることが出来ます。
 花形の成因はよく分かっていません。エメラルドの結晶構造(六方晶系)からは花型の双晶は原理的に生成しません。何か特殊な仕組みがあるはずです。花型のものには、別の興味深い現象がいくつか知られています。花びらにあたる部分の三角形の隙間に、右上の展示品のように何もないタイプの他に、ベリルが存在するタイプも知られています。右上の標本は、この形状で母岩(石灰岩)に埋まっていました。また、トラピチェ・エメラルドと同様の構造を持つコランダム(トラピッチェ・ルビーやトラピッチェ・サファイア)も知られていますが、それらは亀型および*型のみで、花型は存在しません。この様に、花型のトラピッチェ・エメラルドには謎が多く残されており、ミステリアスな標本となっています。

トラピッチェ・エメラルド (ジュエリー) ● トラピッチェ・エメラルド (裸石)


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